15世紀、アルベルティとニコラウス五世がイメージした神聖都市ローマ、そのシンボルとなるサン・ピエトロ大聖堂のクーポラが燦然と輝き、シクストゥス五世の都市改造による新街路に荘麗な宮殿が建られ、多くの馬車や人々が行きかうようになると、ローマは今までの人々が全く経験したことのない、新たな都市イメージを発揮し始め、文字通りカソリック世界の中心となりました。
同時代はまた、大航海による地理上の発見や科学的天文学による新たな宇宙像が組み立てられた時。
ローマは拡大されつつある世界の原点でもあったのです。
それは古代世界におけるカプート・ムンディ(ラテン語で世界の首都の意)を思い起こさせ、世界中の人々に、世界の首府であることを具体的に実感出来る目にも見える形で表現しました。
バロック・ローマの特徴は都市を劇場として再構成したというところにあります。
現在ある主要なローマの広場や聖堂・宮殿、都市を構成する全ての要素は劇場空間を生み出す装置です。
ルネサンス・イタリアが神の世界と調和した新しい人間世界をイメージし続けたとするならば、バロック・イタリアはそれを目に見える形で具体的に都市の中に実現しています。
それも単に理想像としての世界ではなく、より現実的、具体的、感情的に、祝祭感覚に溢れ、透視画法化された視覚的世界、舞台背景として作られました。
さらにバロック・ローマにとって重要なことは、中世のように「神の世界」を理念・観念で見なしたのではなく、都市と広場、教会と宮殿を人間が具体的に構想し組み立てた構築的世界であったことです。
祝祭的演劇性に満たされる劇場都市、そこはバロックのあらゆる生活様式を育む場ではありますが、都市を生み出すものは教皇庁のメセージそしてプロパガンダであったこともまた事実です。
劇場都市ローマはカトリック・ローマの要請により、建築家たちが生み出したドラマチックな世界と理解して下さい。