2010年2月21日日曜日

オルフェオの世界

舞台の中の幻想の世界、その世界の中で進行する歌に託されたドラマ。
オペラは最高の娯楽であると同時に、極めて意識的な作りものです。
演じられている場がどんなにリアリティを持っていても、オペラはそこが現実とは異なる虚構の世界であることを忘れさせない。
豊かなメロディによって人の魂を遊ばせる一方、極めて意識的な作りものであることを自覚させる。
この酔わせながらも、すべてを奪い取らないオペラの持つ自意識性、虚構性は理性を尊ぶイタリア・ルネサンスの特徴です。
キリスト教が中心であった中世社会に代わり、神に依存しない「人間を中心」とした新しいライフスタイルを模索始めたルネサンスの人々。
彼らは神によって作られた「自然的世界」以上に、人間によって生み出される「作品的世界(オペラ)」に関心を示した。

神の世界と人間の世界、あるいは自然的世界と作品的世界。
その橋渡しをしたのは「オルフェオ」です。
オルフェオは竪琴を弾き、言葉を音楽に載せることで無秩序な動物的世界を秩序だった人間的世界に変える音楽の「神」です。
あるいはまた、抒情詩人として言葉を歌によって話すことが許された唯一の「人間」でもある。
「ギリシャ神話」に始まり、ローマ時代の「変身物語」に引き継がれる「オルフェオの物語」はオペラの題材としてはしばしば登場する。
フィレンツェに生まれる最古のオペラを始めとして、その数は30を超え、やがてはオルフェオはオペラのみならず、あらゆる「作品的世界」のテーマともなった。

オペラ作品としての「オルフェオの物語」。
その中で最も良く知られているのがモンテヴェルディとグルック。
前者は17世紀の始め、オペラの誕生期の作品、後者はその転換期、18世紀半ばに作られた。
二つのオルフェオはオペラ作品として重要だが、オルフェオとオルフエオの間の150年間もまた大変興味深い時代です。
モンテヴェルディのオルフェオの初演はローマ、サン・ピエトロ大聖堂の大ドームの完成の時期に一致する。それは美術史に言うバロック時代の始まり。二つのオルフェオの間、バロック時代はオペラのみならず、建築、絵画、彫刻と人間による沢山の作品が作られた時代でもあるのだ。

オペラの誕生を準備するルネサンス、そしてオルフェオとオルフェオの間のバロック。
どちらの時代の作品も旺盛な想像力に満ち、知的好奇心を刺激する複雑多彩な虚構性を秘め、作り上げようとする人間の意志と想像力が満ち満ちいている。
現代にない豊穣な形態を持ち、多義的であり饒舌、豪華多彩、物語性に富み、祝祭的感覚で私たちを圧倒する、この時代の建築は音のないオペラ(作品)といえる。
一方、数多くの名歌手と演奏者、豪奢な衣装とスペクタクルな舞台構成、演じられるものは話す代わりに歌うという、極めて非現実的なドラマであるオペラ。
それは理性と享楽という、あい反する趣味を合わせ持った、人間が生み出す最大の「構築物」でもあるのだ。

「オルフェオの世界」の「音楽と建築」はともに装飾的、複合的、力動的、厚みのある「作品的世界」。
「音楽と建築」の世界に同時に踏み込もうとする試みは、人間の意識によって作られた世界、作品の持つ<虚構の世界>への関心です。
そこには「人間が人間として生きる」というヨーロッパ文化の持つ伝統が色濃く刻まれている。
このブログCommediaのtag operaは国立音楽大学における、10年あまりの講義録「音楽と建築のオディッセー」が元となっている。




(Monteverdi - L'Orfeo - Savall from Bachholoji on YouTube)