ギリシャの3つの神殿と言えば、アテネのパルテノンとスニオンのポセイドン、
そして、エギナ島のアパイヤー神殿。
クレタの乙女アパイヤー(プリトマルティス)はミノス王の執拗な恋に追い回される。
もうまさに、追いつめられ捕らわれそうになったその時、
彼女はとうとう断崖から海に身を投じてしまい、ミノスから逃れた。
しかし幸いにも、漁師の網にかかって助けられ、
このエギナにやって来たと伝えられ、やがてクレタではなくギリシャの神となった。
ギリシャ神話の女神はアテネ同様、みなたくましい女性ばかり。
アパイヤーも弓矢に長け、鹿を倒すのが得意だったと言われている。
サロニコス湾の中央にあるエギナ島、
その東端に建つこの神殿はちょうどパルテノン神殿と向かい合う形に建築されている。
この湾は逞しい女神二人によって守られているということになるようだ。
エギナを訪れたこの日は天気が良く、
エーゲ海は11月ですが穏やかな陽光に包まれ波は静かだ。
ピレウスからフェリーで1時間半、
この島は一人旅でも気安くエーゲ海を楽しめる格好な位置にあった。
この神殿は当初、パルテノン同様女神アテネに捧げられた神殿と考えられていたが、
音楽指揮者フルトヴェングラーの父、古典考古学者アドルフ・フルトヴェングラーによって発見された銘文から、アパイヤーに捧げられたものであることがわかる。
(パウサニウスの紀元2世紀のギリシャ案内記にも叙述されている)
アパイヤー神殿はアテネのパルテノンよりも古く、紀元前6世紀から5世紀にかけての建設。
一部分だが神殿の内側の二重列柱も保存され、外側のドーリア式列柱もほとんど原型を留めている。
使用された凝灰岩あるいは貝殻入り石灰岩にはスッタコ仕上げが施されていて、
赤く塗られた柱頭、トリグラフやメトープには青赤交互に塗られた形跡までが残されていた。
アテネを訪れたのであれば、パルテノン、ポセイドンとともに決して見逃してはならない建築、エーゲ海の船旅と共に欠かせることはできない。
見学の後、フェリー待ちでエギナ・タウン、文字通りこの島の小さな港町を散歩した。
波止場の先端の街はずれ、小さな土産物屋で銀の鎖に連ねられたひときわ大きな首飾りを見つけた。
首飾りといっても、豊満なアパイヤーな胸にこそふさわしいもので、
とても土産になるものではない。
鎖はともかく、石は当然宝石とはいえず、どこにでもある奇石ばかり。
しかし、衝動買いの癖からか、一度手にしたその瞬間、もう手離すことができなかった。
ブルーや赤、緑の小石の組み合わせは、まるでエーゲ海の難破船に隠されていた宝物のように思えたからだ。
英語も話せない店の老婆とのやり取り、なんとかこの宝物を手に入れ、持ち帰ることができた。
どこのどんな石であるかは、まったくどうでも良いこと。
幸い、エギナのアパイヤーで手に入れたこの宝物、この神殿の記憶と共に我が家の何処かに転がっているはずです。