2021年5月27日木曜日

オペラ(作品)としての建築

18世紀以降の音楽と建築に関心を集中すると、オペラが重要な役割を果たしていることに気がつく。同時代はカントに始まる美的モデルネ。美が自律し、芸術の誕生と多くの人が書いている。モデルネとは<新しさ>、そこでは「実体より認識」「美とはなにか」「世界はどんなカタチか」「批判精神」等々が再検討された。オペラと建築の検討に共通する関心は「虚構の空間」。

「虚構の空間」とはエリオットの言う「現実の外にもう一つの世界を作る」試み。初期のオペラはその誕生の経緯を含め、虚構空間に現実批評あるいは知的教育的メッセージを発っしていた。そんなオペラの目的と変容を概観しつつ、同時代の建築を眺めてきたのが「音楽と建築、そのデザイン」(kindle出版)、そしてこのブログ(Commedia)。10年を経過し、同じテーマを今、モデルネに集中し検討しようと考えている。

パッラーディオ以降の近代劇場が示したプロセニアムアーチの役割。そのアーチを手がかりに、様々な虚構世界が生み出されてきたが、このアーチの崩壊により18世紀のモデルネは20世紀のモデルネに引き継がれた。しかし、関心はまさにカストリアディスが言う「自律からの後退:一般化された順応主義の時代」にある。彼は自治の企ては中世末期に始まると書き、最初の契機は西洋思想の再構築、次に批評の時代といわれる近代(1750年〜1960年)、そして今は「順応主義」。資本主義的合理性に対する体系的な批判がすっかりなくなり、代議制民主主義が消極的に受容されている、と書いている。つまり、我々は現実逃避の策略に堕した半真実の一群にあり、「ポストモダニズムの価値を盲従的に反映しているにすぎない。多元論・差異の尊重に関する流行の駄弁を混ぜ合わせ、折衷主義を賛美して、不毛なことを蒸し返して無方向な原理を一般化している」のだ。

19世紀末、オペラのみならず、調性が批判され音楽は大きく変わった。建築もまた同じ。無装飾に始まるモダニズム建築だが、いまやそれは環境の中の単なる箱。箱を表面的に飾るというパッケージデザインによるイリュージュン作り、それはまさにテーマパーク化現象。建築はもはや人間の持つ想像力に寄与できないのだろうか。あるいは現代人の想像力は新たな「オペラ」を生み出す力を失ってしまったのだろうか。