2010年12月20日月曜日

ル・トロネ修道院

 
 ロマネスク建築の時代(10世紀〜12世紀)、教会堂の設計およびその建設の指揮に関わる人はまたその堂内に響く音楽に携わる人でもあった。建築と音楽の担い手はその教会堂の聖職者であり、修道士という人々です。

音楽と建築は各々別々に専門家がいたわけではない。聖職者たちが宗教的メッセージと儀式(グレゴリアンチャント)を音楽化し建築化することでロマネスク聖堂を生み出してきたと考えて良いのではないだろうか。

シトー会のル・トロネ修道院(フランス・プロバンス)は、コルビジェをはじめ近代の多くの建築家を魅了し、その建築記録が小説「粗い石」としてフェルナン・プイヨンによって顕されている。この修道院こそ音楽が建築化された代表的建築と言える。

何故なら、怪奇幻想ユーモアと様々な表象をもったロマネスク彫刻によって彩られるのが流行であった12世紀初頭というこの建築の建設期にあって、ル・トロネはあえて視覚による一切の象徴表現を退け、光と音による神域表現に終始しているからです。そんな建築が示すシンプルなかたちと素材による表現。それはモダニズムの建築家が探していた形態と言えるようだ。

「ヨーロッパ芸術文化と音楽」の中で原田玲子さんはグレゴリアンチャントをつぎのように説明している。
「グレゴリアンチャントは和声も楽器の伴奏もない単声音楽として生まれたものである。したがって豊かな旋律の構成と表現のためには、リズムがどうしても集中的な要件となってくる。そして、世俗的なものへの志向をできるだけひきとめる厳粛な静けさ、ただ官能的にのみ走る美しさを抑制しようとする繊細な均衡のある調和、いたずらに情感を沸き立たせることのない気高い旋律、これらの特性は、たしかにロマネスクの建築とも見合っているであろう。」



(via YouTube by mollro4 : the Cistercian Abbey of Le Thorone )