子供の頃、父親の写生旅行の共をしよく出かけていたので、この地の特徴ある二本煙突は懐かしい。
しかし、この工場がかの谷口吉郎氏の設計であることを知ったのは建築学生になってからのこと。
その後建築設計を仕事としたが、工場内に入り詳しく見学するのは今回が初めてだ。
武甲山での石灰岩の採掘はともかく、この工場でのセメント原料の生産はすでに最盛期は終えている。
幸い、ドコモモ(近代建築遺産)20選に選ばれたことでもあり、工場は60年あまりほとんどその形を変えていない。
その全体は巨大でありメカニカル、日常的なオフィスビルやマンション建築と比べれば、ものづくりの機能がそのまま露出しドラマティックであり、スペクタクルな魅力が一杯。
工業時代の日本を象徴する建築、しかし、その姿は何とも優しく女性的でもあり、決して冷たくない。
屋根は山並みをなぞるかのような曲線、外壁は錆色のスティールと石綿スレートの組み合わせによる繊細な格子模様を描いている。
操業は一部リサイクル燃料製造を取り入れはじめたことでもありまだまだ続く。
山での採掘から製品の生産まで、全てを操業のままの世界遺産として推薦される日も遠くはない。
とすれば、設計者谷口さんが描いていた、「中庭に緑の芝生をつくり、花壇には四季の花を咲かせて・・・・気持ちのいい生産環境」が実現され、多くの観光客を楽しませるに違いない。