2011年10月25日火曜日

ラテン喜劇はルネサンス市民の教養

十五世紀イタリアは清貧禁欲を尊ぶキリスト教に変わる新しい神を探していた。人間を中心とした現実的、合理的な価値観を賛美し、多少の快楽をも許してくれる新しい神、新しい秩序、新しい生き方を模索していたのだ。 そのような風潮が古代の文芸を復興させたのであり、多くの人文主義者(ユマニスト)を生み出した。文芸復興というルネサンスのテーマにとって、注目されていたのはローマ時代の喜劇や悲劇と、その上演の為の劇場のデザインにある。 テレンティウスやプラトゥスが書いた古代ローマの戯曲が再評価され、人文主義者の間ではその戯曲を具体的にどう上演するかが大きな関心。ルネサンスの人々にとって、ラテン喜劇こそ市民の教養(フマニスタ)の証しであり、上演の為の劇場は人文主義思想表現の最も有効な場となっている。 ラテン喜劇の上演は祝宴の催しものとしては些か華やかさに欠け、教育的ではあるがフェラーラ、フィレンツェ、マントバでは盛んに行われていた。観客にとって古典文化と接触しうる場は非キリスト教的生活の規範を知る、あるいは古典的会話の文体を学ぶ絶好の機会。その上演は政治的外交装置ではあるが、同時に新しいライフスタイルの為のカルチャーセンターとなっていたのです。