2017年6月21日水曜日

宇宙の謎を探る、LHCからILCへ

138億光年前のビッグバンにより宇宙が誕生した。しかし、宇宙望遠鏡を駆使してもその膨大な宇宙を観ることが出来るのはたった38万光年までと言われている。
その先の世界を観るためには、我々はビッグバンの爆発によって宇宙空間に飛び交った、様々な素粒子を掴まえなければならない。
超高エネルギー状態で無秩序に飛び交った様々な素粒子は、やがて宇宙が膨張し温度が下がると、まとまり始め物質を構成する。そして誕生したのが夜空の銀河であり、その一つの太陽系であり、 我々が住まう地球であり、地球上の全ての原子。我々人間自身もまた原子の塊に過ぎないのだから、人間もまたビッグバンに始まる素粒子の塊であり、星屑の一つに過ぎない。

宇宙のはじまりを知るビッグバン直後の高エネルギー状況を実験室に作り出す装置が「高エネルギー加速器=リトルバンを生み出す実験装置=LHC」。1980年代以降、LHCにより数多くの素粒子を発見された。その測定から宇宙の成り立ちや、素粒子の運動を支配する原理がわかりつつあるが、原理の理解は「標準理論」として纏められている。
しかし、理論で存在が予測されているが、なかなか発見されなかった粒子がある、ヒッグス粒子だ。この粒子の発見は2012年、この時からいよいよ、宇宙の解明が加速されたが、しかし、標準理論で説明出来るのはわずか5%に過ぎない。全宇宙の大半は見ることが出来ない謎の物質「ダークマター」と謎のエネルギー「ダークエネルギー」によってその大半は構成されているのだ。

そしていよいよヒッグス粒子や暗黒物質、暗黒エネルギーを捕まえる「国際リニアコライダー計画=ILC」が始まった。この実験装置を北上山中に作ろうというアインシュタインもコペルニクスもビックリするような計画。
ILCは全長50キロメートルの直線型加速器、可能な限りのエネルギーで電子と陽子を衝突させビッグバンを再現しようとする実験装置。
138億年前のビッグバンは物質の解明のみならず新たな「次元」、素粒子とは異なる複合粒子という新しい「階層」、あるいは単独宇宙に関わる我々だが、スカイウォーカーやダークベーダーが活躍する「複数宇宙」の存在が見えてくるかもしれない。どちらにしろ、人類史最大なワクワク計画といってよいだろう。

今日の早稲田大学井深大記念ホールでの講演は村山斉氏と鳥居祥二氏のお二人。どちらも超優秀な頭脳、話の内容は素人の私には難解だが、しかし、優秀なのは頭脳だけはない。話は各々一時間足らずだが、そのわかりやすさは驚くばかり、気持ちの良い、午後の時間を楽しませていただいた。
前者のお話は今やTVでもお馴染み、ユーモラスな解説で今日も巧みに我々を宇宙に引き込んでいく。ポイントは宇宙が冷え、結果、様々な物質・星・人間が生まれるのだが、その原理はエネルギーだけの問題ではなく、超特殊なヒッグス粒子により、熱い無秩序な宇宙がやがて秩序を持つところにもあるようだ。(聞き間違っていないかな、責任は村山氏ではなく、当然このわたし)
後者のお話はNASAの国際ステーション(ISS)での宇宙線観測するカロリメータ型宇宙電子線望遠鏡(CALET)とその観測データ。宇宙の高エネルギー現象の理解には宇宙線が最も重要。来月の国際会議には観測されたデータから重要な発見が発表されるかもしれない。

2017年6月16日金曜日

永遠のファシズム ウンベルト・エーコ

昨年の2月に亡くなったエーコを読み続けている。薔薇の名前は読みやすかったが、フーコーの振り子や前日島は途中で挫折していた。
最近になって、プラハの墓地が面白く、岩波がバウドリーノを文庫化していたので、今は虜になっている。
長らく気がつかなかったが、彼の本の面白さは人間の間のミステリーではなく、個人の中に巣くう陰謀にあるのかもしれない。
そして一昨日、共謀罪を強行裁決する国会を眼にし、「永遠のファシズム」の真実味をまのあたりにした。
何時の時代、何処にでも生きる、人間が持つファシズムの原形を永遠のファシズムとエーコは捉え、その形を次のように原ファシズムとして列記している。

1ー>伝統崇拝=知の発展はありえない、私たちのできることは解釈し続けることだけ。
2ー>伝統主義はモダニズムの拒絶を意味のうちに含む。
原ファシズムは非合理主義。
3ー>文化は批判的態度と同一視されるいかがわしいものとされる。
知的世界に対する猜疑心は、原ファシズムの兆候。
4ー>原ファシズムにとって、意見の対立は裏切り行為。
5ー>原ファシズムは人種差別主義。
6ー>原ファシズムは個人もしくは社会の欲求不満から発生する。
7ー>原ファシズムはその心性の根源に陰謀の妄想力を抱え込んでいる。
8ー>敵の力を客観的に把握する能力の欠如。
9ー>生のための闘争は存在せず、あるのは闘争の為の生。
平和主義は悪であって、敵とのなれ合いと見なされる。
10ー>原ファシズムは大衆エリート主義を標榜する。
11ー>原ファシズムは死(英雄)にあこがれ、死に急ぐ。
12ー>原ファシズムはマチズモの起源、英雄視は武器と戯れる。
13ー>原ファシズムは質的ポピュリスムに根ざしたもの。
個人は個人としての権利を持たない。
人間存在は量としては共通意志を持つことなどありえないのだが、原ファシズムは個人的意志を認めない。
14ー>原ファシズムは虚構を話す。

2017年6月12日月曜日

バウドリーノ ウンベルト・エーコ

自分は嘘つきだ、という男が話す12世紀の歴史物語。
歴史は現実なのか、見たものなのか、人の話しなのか。

聴き手は十字軍の巡礼者に蹂躙された都市、コンスタンチノープルの高官ニキタウス。
語り手はイタリア中部、ロンバルデイアに生まれたバウドリーノ。

彼は13歳で街を出て、ケルン、パリで学び、コンスタンチノープルからアルメニア、キリキアへ、そして聖地エルサレムではなく、今では空爆が絶えることのない砂漠を越える。

12人の旅の仲間とともにたどり着いたのは不可思議な言葉と体型を持つキリスト教者の地でもあり、一角獣とヒュパティアの住まう古代ギリシャ。

しかし、バウドリーノの旅は終わらない。
ロック鳥に救われ一度はコンスタンチノープルに戻るが、今度はたったひとりヒュパティアの地を目指す。

信じるべきは、歴史かもしれない!

学ぶべきは、宗教かもしれない!

夢みるものは、旅かもしれない!

2017年6月7日水曜日

北大路紫野の大徳寺

新緑が終わり、梅雨を迎える前の一時は京都は思いの外、花は少ない。
しかし名所と繁華街、駅は修学旅行生と外国から訪れた人々で大賑わいだ。
昨日までの友人たちと別れ、久し振りに大徳寺の塔頭を訪ねることにした。

記憶では、ここではトップクラスの歴史と文化が展開されている寺院。
時間的には公家と武家の交代期を色濃く刻み、空間的には多彩な禅宗庭園と茶室建築の集積地となっている。
この日、思ったより観光客は少なかったがしかし、もっとも京都らしいところと言って良いのかもしれない。

大徳寺は14世紀の初め、赤松則村の援助で開山した臨済宗(禅宗)の小寺院から始まっている。
半ばには後醍醐天皇により五山筆頭の南禅寺と同格に列せられるなど、重要な寺院として隆盛した。
しかし、建武新政崩落後は時の足利権力に翻弄され沈滞する。
同じ臨済宗でも無窓疎石の関わる足利政権下の寺院群とは異なり、ここは公家に愛された大徳寺、その寺勢は思うようには伸ばせない。
15世紀半ばには、かの応仁の乱とそれに続く戦乱に巻き込まれ、歴史ある伽藍の大半は廃墟のような体となってしまった。

時代は動き、庶民の台頭が始まると、鎌倉仏教は農民の浄土宗、商人の法華宗として隆盛し、京都のみならず日本中に沢山の寺院が作られる。
そんな時代、禅宗寺院大徳寺は一休和尚により復興され、武家社会に広まって行く。

大徳寺の見学は南から東に連なるふたつ大きな方丈庭園に始まるが、楽しみは、人のいない縁側からのんびりと時間を忘れ、小さな石庭を、砂の海と石の島々を、見立てられた蓬莱の世界を体験するところにある。幾つもの塔頭で展開される絵画的世界は、まさに此処でしか体験出来ない禅曼荼羅の世界なのだ。

塔頭は桃山時代には豊臣秀吉が織田信長の葬儀を営み、信長の菩提を弔うために建立した総見院が有名だが、戦国時代の京都に関わる家々の多くはこの寺の僧侶を開祖とし菩提寺としている。
まずは一休宗純の搭所真珠庵、能登畠山氏の龍源院、九州大友氏の瑞峰院と大慈院、加賀前田家の興臨院、前田利家夫人のまつが建立した芳春院、小早川家と毛利一族の黄梅院、三好家の聚光院、細川家の高桐院、ここにはガラシャ夫人の墓標もある。その数は22ヶ寺、しかし、一般公開は数ヶ寺にすぎない。なかなか見学できないが最も有名なのは弧蓬庵だろう。小堀遠州の小庵を大徳寺に持ち込み彼の隠居所としている。その庭と茶室忘筌は国史跡・重文だが、19世紀日本の最高の建築空間と言って良いのではないだろうか。