2017年4月11日火曜日

冬の日誌 ポール・オースター

読み終わりのページ数もあと僅か、語り手は突然、オースターの無音楽ダンスパフォーマンスでの体験に触れる。体験とはオースターをどこか未踏の地に連れて行くもの。1978年12月、オースターはマンハッタンの高校の体育館でのダンスパフォーマンスによって、どん底の執筆生活から救われたとある。
さらに語り手は、ブルックリン橋からオースターが眺める建築の美しさに触れている。オースターは1980年来ブルックリンに住むようになり、繰り返し繰り返しこの橋からマンハッタンを眺めてきたが、その風景から消えてしまったツインタワーについて、語り手は次のように語っている。
「タワーがなくなった現在、横断するたびに死者のことを君は考えずにいられない。自宅最上階の娘の寝室の窓からツインタワーが燃えるのを見たこと、攻撃のあと三日間近所の街路に降った煙と灰のこと、・・・。あれ以来九年半、依然として週に二、三度橋を渡りつづけているものの、その移動はもはや同じではない。死者はいまもそこにいて、タワーもまだそこにある。記憶の中で死者たちは息づき、空にぽっかり空いた穴としてタワーはいまもそこにあるのだ。」
そして語り手は64歳になったオースターに対し「君は人生の冬に入ったのだ。」と語り、ページを閉じる。
いやぁ、なんとも素晴らしい日誌だ。オースターが書いた自伝ではなく、第三者である語り手が書いたプロジェクト報告なのだ。
淡々とリズムを刻み、のんびりと端正に、人と時間の世界を歩み続けるオースターを語り手は丁寧にかたっていく。
オースターは2001年に「ナショナル・ストリー・プロジェクト」を纏めたが、「冬の日誌」はオースター自身を、オースターだけをテーマとしたストーリー・プロジェクトと言えるようだ。完成が2011年と言うことは、オースターは丁度10年間、今度は自分自身をプロジェクト化し、この「冬の日誌」を書き終えたのだ。
いや、まだ終わってはいない、訳者柴田氏はあとがきに書いている。「ある身体の物語」たる本書が刊行される翌月には、「ある精神の物語」である「内面からの報告書」の訳書も刊行される。」そうか、プロジェクトはまだ終わっていない、明日にでも神保町に出かけプロジェクト報告を手に入れよう。

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