2015年5月16日土曜日

マルティン・ベック シリーズの新訳

マルティン・ベック シリーズの新訳がキンドルにアップされていた。
 翻訳ミステリーやハードボイルドはボクの好みだが、電子出版はまだまだ少ない。 
人気作家はシリーズ出版だが、最近はオカルティックやエキセントリックなミステリーが多く、一作で厭きてしまう、時代差だろうか。
40年前のマルティン・ベック主任捜査官は当時大人気の007とは大違いだが、社会性に富むミステリーとして何冊か読んだ記憶がある、人間味のある地味なミステリーだ。 
ボンドが美女と愛を交わし世界中の都市や名所を駆け巡っている頃、たまに家に帰るベック捜査官は夫婦仲の冷めたカミサンの鼾に悩まされ、風邪で咳き込みながら、降りしきる冷たい雨の中の薄暗い北欧の街を這いずり廻っている。

 格好いいボンドからは読みとれない、捜査上に現れる複雑な人間模様ときめ細かな北欧の街々の風景。 映像と写真からは見えてこない大都市の持つリアルな面白さがこのシリーズの人気の秘密かもしれない。 
マイ・シューヴァルとペール・ヴァール(二人は今で言う事実婚)はストックホルムの地味な警察官たちの日常を黙々と書き続けたのだろうが、日本ではかって何冊ぐらい翻訳されたのだろうか。
 今回の新訳企画はこのシリーズで最も有名な「笑う警官」と第一作と言われる「ロセアンナ」の二冊からスタートした。
そして、早々にキンドルで読み終わったので、その感想をブログに残すことにした。
 前書は水の街ストックホルムの観光船の中で殺され、全裸のまま閘門に放り出されたアメリカ人女性の話。 
後書は日常の市内バスの中で起こった乗客9人が全員銃殺される事件。 

現代社会ならテロと勘違いする大事件だが、アメリカのベトナム侵攻に反対する当時のストックホルムの日常が舞台となっていて、まさに40年前のアメリカ嫌いのスェーデン社会がそのまま描かれる。
 読みながら、興味を持ったのはやはり現代と異なるこの街の印象かもしれない。
 社会福祉と洒落たインテリアデザインが今のイメージだが、退廃したフリーセックスと麻薬と自殺、そしてデモと移民の街というのが当時のストックホルム。
やがては東京も、という先取り的陰鬱観がかってのボクの関心、今回、再読して、その奇妙な関心を呼び覚まされると同時に、本当の都市の魅力とはいったい何だろうということを改めて考えさせられた。
 新訳企画は「ミレニアム」人気がきっかけとあとがきにあったが、確かに、その陰鬱さと重いリアル感は共通している。
しかし、マルティン・ベックが面白いのはなんといっても都市と人間の絡まりにある。

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