2014年12月20日土曜日

誰よりも狙われた男 ジョン・ル・カレ

「誰よりも狙われた男」 ジョン・ル・カレ
「誰よりも狙われた男」もまた悲しい男たちのドラマ。
冷戦時代のスマイリーに代わりテロにまみえるゼロ年代のエスピオナージ、まさに時代はビッグ・ブラザーからリトル・ピープルへというところだ。
スパイなどという前世紀のヒーローはもはやどこにも登場しない。
登場する誰もがみんな、どこにでもいる小粒な組織人間。
何のためか、誰のためか、主義も目的もなく、いや対する敵すら誰なのかも想像出来ない男たち(一人女性がいたCIAだ)のドラマ。
そんなエージェントたちはただただ弱いものを追いつめていく。
映画を観て後の小説の読書は、映画ではカットされている部分もきめ細かく描かれていて、やはりル・カレの世界は小説の方が一枚上だ。
しかし、この映画ではほぼ全編、省くことなく映像化されていたと思う。
物語はドイツのハンブルグだが、この都市はル・カレの60年代べストセラー「スマイリーと仲間たち」の舞台でもあった。
ル・カレは作家になる前、この都市のイギリス領事館に努めていた。
だから、何処でも起こり得るこの悲劇にハンブルグが選ばれたのだ。
彼の小説は特にそうだが、エスピオナージでは、登場人物のキャラとドラマの舞台となる場所(時間・空間)が特に大事だ。
人間の悲喜はすべて舞台となる都市風景と親密にシンクロするのだから。
しかし、この映画の悲劇はもはや世界中のピップな都市なら何処でも起こるだろう。
集団的自衛権や特定秘密保護法を持つ東京や大阪でも。
グローバル/ネットワーク時代、いまやテロリストは誰かは問題ではない。
見えないテロに右往左往するリトルな人間たちが都市を走り回る恐怖(テロリズム)だ。

疲弊していた造船の街ナントの創生文化都市として再生

疲弊していた造船の街ナントの創生文化都市として再生
青柳正規文化庁長官の話を聞く、日仏会館創立90周年記念講演。
テーマはcreative city network。
造船で繁栄していたフランスのナント市だが重厚長大 化による疲弊で衰退していた。
しかし近年、市長を中心となっての地域おこし、その目論見はもののみごとに花と咲き、市民創生文化都市として再生した。
このナントをモデルに現在、ビルバオ、グラスゴー等が文化芸術を手掛かりに、地域文化の再生に取り組んでいる。
ポイントになることは決して単なる観光化ではない。
生活の質の向上を目標とする文化都市をいかに建設するか。
ここでいう文化とは決して難しいことではない。
いかに市民一人一人がより良い生活を確保しようとするか。
そして、その生活を支えるもの、それは人間と人間、人間と環境との関係への配慮ということ。
日本でもいま全国各地で生活文化向上をテーマにした、
新たな地域づくりへの取り組みがはじまった。
その数は青柳氏の説明では、現在28都市に広がったという。
具体的には島根県金沢市、兵庫県豊岡市、兵庫県篠山市、富山県八尾市、徳島県神山町等々。
講演ではその再生活動が詳細に報告され、その活動の活性化のために、
いかに、新たなネットワーク作りが有効かを説明された。

2014年12月18日木曜日

ゴーン・ガール

サウンドが気になり今回はシネマズ日劇で観た「ゴーン・ガール」。やはり音楽は面白い。結婚5年目のライター夫婦、一見セレブだが、共にライターだけにドラマは虚々実々。リトルピープル時代のリトルな人たちのサスペンスだ。

2014年12月5日金曜日

いつも手遅れ アントニオ・タブッキ

書簡体小説として書かれているのはすべて記憶の世界の物語だからであろう。作者はクレタ、プロバンス、パリ、ロンドン、ポルト、テッサロニキというかっての訪れた町の記憶を頼りに別れた女性に手紙を書く。語り手は全て男性、相手は同一人物ではないが全て女性。返事は一度もない、読まれているかも定かではない。書き手も相手もバラバラ、書かれているのは町の記憶につながる思い出ばかりと言って良い。

恋文ではない、何の為の手紙。この短編集の面白さは、すでに書いたが、物語と言うより、「記憶」を形として残しておこうと言う、建築デザインのような内容にある。

旅をテーマとし、その記憶を物語にする小説は少なくない、どれもボクの好みの小説ばかり。 (オウィデウス、アラベールとエロイーズ、ルソー、カフカ)ゲーテのイタリア紀行から始まり、ユルスナール、辻邦生、須賀敦子、堀江敏幸、・・・きりがない。タブッキの小説はすべて紀行文ではないが、いつも訪れた街とその街の人々が克明に描かれる。

本書の解説にタブッキはこの小説を契機に「記憶」から「時間」に転じたという。なるほど、空間を語るあるいは発見すると言うことは、時間を見ることなのだろう。