2014年10月2日木曜日

倫敦塔 夏目漱石

「 倫敦塔は宿世の夢の焼点のようだ。」と漱石は書いている。
1900年10月からの2年間ロンドンに留学した漱石だが、その建築体験が小説となったのはこの短編だけだろうか。
文中、この塔へは二度と行かぬ、とわざわざ書き、事実、二度と行かなかった漱石。

都市や建築に関心が強い彼が、この時の体験を小説にしたのでとても興味深い。
当然のこと、建築体験を文章にするなら、その想像世界を描かなければならない。
漱石はドラロッシの二枚の絵画をこの建築体験に重ね合わせ描いている。(絵画の解説ブログを見つけましたのでリンクします。 http://katuheiyam.exblog.jp/12930742

建築空間とタペストリー、そして石壁に刻まれたらくがき。それは塔で斬首された皇子兄弟と15才のジェーン・グレイ。そして、皇子たちの魂だろうか、塔を見学する母娘が見つめる窓の外の二羽の烏。
死よりも辛い牢獄、 世界はまるで小さな戯曲。

面白いのは見学後、宿に帰ってからの亭主とのやりとり。
彼は「烏」は奉納の五羽であり、「ジェーン」の文字は見学者の悪戯と語り、漱石の空想は一瞬に砕かれる。
この亭主こそまさに二十世紀の倫敦人と漱石は認め、二度と行かぬと感情移入の戯曲の幕をとじる。

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