2010年1月25日月曜日

建築のなかの物語=ヴィラ・ロトンダ

(ヴィラ・ロトンダに託された物語)

ヴィラ・ロトンダはアルカディアとして作られた劇場的世界。その世界は等質・等方なルネサンスの舞台空間。そして舞台に配されるシンボル、それは「四書」にも書かれている古代神話に由来する彫像の数々。

四つのペディメント(ロッジアの三角形の破風端部)には3体ずつ12体。階段の上がり口には2体ずつ8体の等身大の彫刻像。それらは個々に神話から由来するアレゴリー(寓喩)、円形広間の中央水抜孔の牧神パンを始めとしてアポロンやヴィーナス、ジュピター等々。

その全体はアルカディアに隠棲する「ミダス王の物語」となっている。ヴァネツィアに捕らえられたこの建築の施主であるアルメリコはミダス王と同じように、アルカディアの住人となって故郷ヴィチェンツァ隠棲する、それがヴィッラ・ロトンダに託された物語だ。

(王様の耳はロバの耳)

ミダス王とは「王様の耳はロバの耳」、あの誰もが知る欲張り王のお話。王はバッカスにねだり「手に触れるものなんでも黄金にして下さい」とねだる。願いは叶えられるが、食事の際の食べ物・飲み物、すべてが黄金に変わりミダス王は飢えと乾きに苦しめられる。再びバッカスのところにゆき、神の言いつけ通り、パクトロス川(ロトンダの前にはバッキリオーネ川が流れている)で身を洗い、黄金の地獄からは救われる。

そんなミダス王はある時、アポロンとパーンの音楽家としての腕比べの審査を引き受ける。彼は素朴なあし笛のほうがアポロンの銀の竪琴より響きが良いと気に入り、パーン(ロトンダの中心の雨落ち孔)の勝ちにした。しかし、アポロン(その彫像はロトンダでは裏側となる南西のメディメント頂部)は怒り「お前の耳はばかな耳だ、そんな耳はロバの耳になるがいい」と言い、ミダス王の耳は毛むくじゃらの耳に変えてしまった。

ミダス王は恥ずかしがり、特別仕立ての帽子をいつもかぶっていたが、床屋にだけは隠せない。王は床屋に「秘密をもらしたら命はない」と厳命するが、耐えきれなくなった床屋は野原に出て穴を掘り、その穴の中へ「王様の耳はロバの耳」と言って、また穴を埋める。

やがて、春になりあしが生えた。そのあしは風が吹くとささやいた、「王様の耳はロバの耳」と。王様の秘密は風に乗り世界中に広まって行く。

山室静氏の「ギリシャ神話:教養文庫」の「ミダス王」からの簡約。

改めてこの物語からヴィラ・ロトンダに戻ると、建築とはつくづく面白い存在であることを教えてくれる。

この建築はまず十五世紀のヒューマニズムの体現装置(透視画法の空間)、と同時に十六世紀の「アルカディア」なのだ。

ヴィラ・ロトンダは建築とリアルな環境とが一体化された秩序ある世界を想像的に体験する劇場的世界として作られた。その後、ヴィラ・ロトンダは「幽霊屋敷」とも言われ荒廃に荒廃を重ねている。しかし、結果としては、今に残されている。建築を残すものは「何」なのか、といつも考えている。

それは決して個人的な趣味や利便ではない、建築は物語であり「メッセージ」であるからだ。建築への考えかたが変わり時代が変わっても、建築に託された「言葉」は何時までも生き続ける。そしてまた、あしに吹く風は永遠に「王様の耳はロバの耳」とささやき続ける。

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