2012年5月4日金曜日

裏切りのサーカス  ル・カレ

「寒い国から帰ってきたスパイ」「スクールボーイ閣下」等は冷戦時代の英国諜報部M6(サーカス)を描いた70年代のベストセラー。 ジョン・ル・カレが書いたジョージ・スマイリーは同時代のジェームス・ボンドの対局にある、中身の濃い本格的エージェント。 ション・コネリーのボンドは欠かさず見たが、スマイリーも早川から翻訳される度に神保町出かけては買い込み読んでいた。 

「テインカー・ティラー・ソルジャー・スパイ」は失脚したスマイリーが復活し、エージェントからコントロールになるまでの話。 「裏切りのサーカス」はこの小説の映画化であることを実は最近まで知らなかった。 まさか、ジョージ・スマイリーが映画になるとは考えてもいなかったから。 もっとも、スマイリーものはすでにアレック・ギネスでTV化されている。 それを知ったのもごく最近、残念ながら一つも見ていない。

 今晩の有楽町の館内はほぼ満員、聞いてはいたが大変な人気だ。 70年代とは異なり、いまはインターネット時代、 チケットは人気の割には容易に手には入ったので良かったが。 館内はボクと同世代が多い。 みんな、かってのル・カレのファンというところだろうか。 実に良くできた映画だ。 読んでいた記憶があるせいかもしれないが、二重スパイの筋立ては決して難しくない。 頭脳戦であることは変わらないが。 映像をしっかり見ていれば読んでいなくとも、誰がモグラかすぐ判る。

 良く出来ているなと思うのは、小説としてではなく映画としてしっかり出来ている、と感じたから。 最近のこの手の映画の特徴、時系列が錯綜する作りだが、時間差を巧みに映像で描き分けている。(ネタバレになるがスマイリーのめがねとかのファッション、店や町という空間のしつらえなど) この映画は決して単なる小説の映画化ではない。 
アカデミー脚本賞ということだが、この映画を支えているのはまさに脚本だ。 台詞が簡潔。 小説のように言葉で理解しようとするのでなく、映像をしっかり読むように作られている。 ボクでも判る、それほど難しい英語ではないから、字幕を追うより映像を見落とさないように。
 あの、コンパクト鏡、なんとも色っぽい。 あの、クルマの中の蜂のうごめき、言葉以上に語っている。 この映画はいつになく男たちの涙が多い、一言の言葉もなく、映像の奥深く。 脚本とは小説から台詞を抜き出すことではなく、映画にすること。 そして、ここには小説では表しにくい人間の確執が事細かに描かれている。

 そう、この映画はむしろ恋愛映画だ、青年と老年の二組と様々な人々の繊細な関係。 エスピオナージだからこそ描きやすい、不確かな環境と不安定で不可解な人間世界。 音と映像そして音楽も実に良い、多くを語らず、観客の想像力が決め手。 小説としてもやや複雑難解な「テインカー・ティラー・ソルジャー・スパイ」をまさに映画として巧みに作り上げた名作。 映画好きなら何度でも楽しめそう、お勧めです。
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