2011年12月25日日曜日

マントヴァのサッビオネータ劇場

パラーディオの弟子ヴィンチェンツォ・スカモッティはマントヴァの郊外に興味深い劇場を作った。
1580年8月に他界したパラーディオに変わりテアトロ・オリンピコを完成させた彼は1588年、ヴェスパシアーノ・ゴンザーガから新都市サッビオネータに劇場を作ることを依頼される。
この劇場は近年再建され、同じマントヴァを題材とした「リゴレット」の映画版オペラの舞台とし利用されている。https://youtu.be/RybU-no7VEM?list=PL1DAF33ED1F12A1BB

サッビオネータ劇場は舞台上に固定背景を持ち、客席の外周に円形のコロネードを配し、全体はテアトロ・オリンピコに良く似ている。しかし、舞台の間口が狭く中央に広間を持ち、奥行きが深い平面構成を持つこの劇場は、インテルメディオ等の上演に向くテアトロ・ダ・サラ型の劇場の一つと言える。
パラーディオは舞台の間口を広く取ることで、古代の円形劇場と同様の、均質な観客席からの視線の確保につとめているが、スカモッティは広間または観客席の中央という特別な場所からの視線のみを重視している。このU字形の観客席は意味深いものがある。後世の観客席はすべてこの形態、スカモッテイはテアトロ・オリンピコを踏襲しながら古代劇場の持つ世界劇場としての建築的意味を解体したことになる。

パラーディオのテアトロ・オリンピコとの違いは舞台上の固定背景の作り方にもある。サービオネーターは大きなア−チの奥に透視画法の立体模型による宮殿や豪邸が建ち並んでいてパラーディオと同じ都史風景だが、ここでは古代ローマの劇場のようなの三つの出入口ではなく、たった一つのアーチ、その形状はテアトロ・ファルネージャのプロセニアム・アーチに近い。
しかし、ここでは演技者はアーチの内側で演技することは出来ない。このアーチはパラーディオ同様 、透視画法による視線の強調に過ぎない。

スカモッティはなんとも奇妙な劇場を作ったと言える。アーチの中の幻想世界で演技するためには、折角の立体模型を全て取り壊さなければならない。パラーディオを真似た立体都市、しかし、スカモッティは劇場全体で都市あるいは世界をイメージさせようとしたのではなく、単なる視線の強調の為のアーチを作ったに過ぎない。さらにまた、このアーチは後世のプロセニアム・アーチのように、舞台上の幻想世界を演出する装置にもなっていないのだ。

プロセニアム・アーチの役割は客席という現実世界と舞台上の幻想世界とを明確に分離することにある。インテルメディオの上演には度々このアーチが重要な手がかりとされて、後のテアトロ・メディオのブオンタレンティにとっては欠くことのできないもので、<美徳>や<悪徳>が出たり入ったりする自由な場面転換のための装置となっていた。