2010年2月12日金曜日

サン・マルタンのオケゲム

花の聖堂の音楽を作ったギョウム・デュファイと並ぶもう一人のルネサンスの音楽家、ヨハンネス・オケゲムは現在でもその音楽に直接触れることができる重要な作曲家です。
彼もまたデュファイ同様、フランドルの音楽家。しかし彼は教皇ではなく、三代のフランス王に仕え、宮廷音楽家として活躍します。
晩年はトールのサン・マルタン修道院の財務官。ロワール河流域の主要都市トールの修道院は10世紀以来、歴代のフランス王が修道院長を勤めてきたところ、オケゲムは大変な厚遇を受けた音楽家であることがわかります。

15世紀後半とは言えフランスはまだ中世的性格が強く漂っています。
オケゲムはそのような宮廷に沢山のフランス語の多声シャンソンを書きました。
しかしオケゲムをルネサンスの音楽家とし有名にしているのは楽譜が残っている10曲のミサ曲です。
その音楽には様々な工夫があり、当時としては最高度の技法が駆使されてます。
死者のためのミサ曲をレクイエムといいますが、オケゲムは現存する最古のポリフォニー・レクイエム「死の淵を見つめて」を書きました。

ルネサンスの音楽の特徴はバロック以降の音楽と異なります。
そこでは様々な声部の重なり合いが重要であって、必要以上の感情表現や描写性はじっと押さえられています。
従って、このレクィエムは嘆くものでもなく、叫ぶものでもなく、ただただ死の淵にたたずみ、黙考することを私たちに要求します。

最も有名なミサ曲は「プロラツィオーヌム」です。
その音楽は数学的あるいは建築的と呼べるもの。四つの声部の重なり合いで展開されますが、各々の声部の音符の長さは全部ことなります、しかし各声部は一定の比率を持たされていて、その比率に合わせ定旋律に絡まり調和を作り出して行くのです。
複雑な数あわせのようですが聞く耳には水のように音が流れて行きます。

オケゲムにはもう一つ、大変な「数あわせ」のミサ曲があります、「天使ガブリエルはつかわされぬ」。
定旋律は九つの部分から構成されていますが、前半の六つの部分は全曲中6回、後半の三つの部分は3回使われます。
さらにこの定旋律の音の数を調べると、最初の三部分と最後の三部分はともに34音、第四の部分は14音、第五・第六部分が28音、つまり1対1、1対2です。
そして驚くことに全曲中の定旋律部分の休符と音符の長さの比は662対993、この比は天使ガブリエルがマリアに告げる言葉のアルファベット番号の比66対99に対応した2対3となっていました。




(Ockeghem Requiem from Orontea on YouTube)