2010年1月24日日曜日

ピーター・クライムズ


ボクにとっては今日が3作目。ネトレプコのジュリエット、マッティラのマノンそして今回30日に品川プリンスシネマでグリファーとラチェットのピーター・グライムズ(メトライブビューイング2008)を楽しんだ。ブリテンのオペラは初めてだ。19世紀末プッチーニ以降のオペラでは今回が一番わかりやすい。ドラマはともかく、ブリテンの音楽は聞き慣れた歴史的音楽に近く絵画的であるからだ。作曲者が住んだオールドバラに似た小さな漁村がドラマの舞台。不幸な漁師と口さがない住民たちのうわさ話がリズミカルな音楽に乗って的確にドラマを盛り上げて行く。

20世紀、小さな貧しい人間集団を秩序立てるものは何なのか。中心が見えない中での唯一の力、支配し意味を持つものは住民たちの疑心暗鬼とうわさ話。主人公ピーター・グライムズは説明出来ない自己の持つ真実と無責任な他者の虚言に翻弄されやがて自己を失う。登場する村民の姿一つ一つは今を生きる私そのものに感じられる。そして狂い惑う主人公もまた現代を生きる全ての人間を象徴しているかのようだ。メト会場の観客のような熱狂的なスタンディングオベーションの情景とは相反するが、不思議な感動が胸を打ち、心豊かのまま午後11時降りしきる雨の中、品川駅へと急いだ。